クラフト メルクリンとミニチュア模型制作の専門店

写真32 写真33
写真32 写真33
展望台から20mも遠ざかれば、そこはもう静寂の世界です。モンテローザを背に、マッターホルンに向かって降りていきます。でも、山はじっとしたままちっとも近づいてこない。日差しが、ルーペで集めた光のように首根っこをじりじりと焼いて、暑いというより痛い。腕にはひんやりとした風を感じる。周りには誰もいなくて「おお、山と我、対峙せり」とはこういうことなのか、と思ったりする。私はそこで、がけっぷちの大きな岩の上によじ登ったり、しばし羊の群れを追ってみたり、モーターの音のようなバッタの羽音に耳を傾けたりしたのでした(足元にはなぜかバッタの大群がいて、一足踏みだすごとに、水溜りの水を跳ね上げたようにバッタが一斉に四方に飛び散る)。山はそんな私を叱りもせず、励ましもせず、ただ黙々と見守っている。40分ほど下ったところにリッフェルゼーという小さな湖があって、マッターホルンがそこにくっきり写っている!まるで、鏡を覗き込んでうっとりしている女性みたいだ(写真34)。どうして、自然というのはこんなちょうどいい場所に、こんなものを造ってしまうのでしょう。彼方から、音もなく登山電車が登ってくるのが見えます(写真35)。列車内の喧騒を思い、「早くこっちにおいでー」とは、おそらく黄泉の国に来た人が、現世の人に対して思うことなのかも知れません。山は本当に天国に近いらしい。現に、酸素も薄いし、意識もこころなしかもうろうとして、幻覚でも見えちゃったりして……。
写真34 写真35
写真34 写真35
5)終わりに ...
……ん。お、もうおうち着いちゃったですか?いやー、途中で眠っちゃったみたいだけど。でもなんか、すごくいい夢見ていたような気がする……。そうだ、満開のお花畑とマッターホルン。えっ、じゃあれは全部夢だったの??いや、待てよ……。あった!氷河急行のチケットとGGBのチケット!よかった、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。
(追記)
ドイツは仏教国ではありません。したがって、当然お盆休みもありません。私もこちらにいる限り、そんな日本的歳時記とは無縁なものと考えていました。ところがです、おりしも、ドイツに出張して来られている知り合いのIさん、Hさんが日本企業の暦にあわせてお盆休み。「スイスに行くけど、一緒に来る?」のメールにもう心はそぞろ。気がつけば、おんぼろのスーツケースに旅支度を始めていたのでした。そんなわけで、今回のスイス鉄道の旅はこのお二人のご協力あって実現しました。また、写真などの資料も一部提供いただいたものがあります。ご報告申し上げますと共に、厚く御礼申し上げます。
Mit herzlichen Gruessen,Y. Miyake(取材~文章・写真提供/Y. Miyake)
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