今回はメルクリンZゲージ「VT11.5(TEE)」のメンテナンスレポートです。
品番は88731、88732、88733、いずれも基本4編成(前後動力2両+中間車2両)で、これらはすでに絶版になっています。
現行モデルは、88734(前後動力2両+中間車5両の7両編成)ですが、基本構造は同一です。
発売されて以来、かなりの台数をメンテナンスしてきましたが、ICE同様、構造的なウィークポイントがいろいろあり、快適なコンディションを保つためには定期的な走行とメンテナンスが必要で、ましてや大切にしまっておくと、接点不良やオイル固着で動かなくなってしまいます。
この編成の大きな特徴は、日本型Nゲージ等に多く見られる「動力車を編成中間に1両置く配置」と異なり、前後に動力車を配し、それぞれが進行方向に合わせて走行(回転)する点です。これによって中間車を空洞化~室内照明を実現させています。
二つの動力車のモーター回転スピードは、モーターやギア周辺コンディションのバラつきで、必ずしも「1:1」ではないため、一方が不調に陥ると、もう一方に強い負荷がかかり、正常に走らなくなります。従って前後二つの動力車を常によい状態に保っておくことが前提になります。
また、編成は接続の順番があります。メンテナンス入庫されるほとんどが、どういうわけか通電を兼ねた連結バーが取外されたバラバラ状態で届きます。動かなくなって、あれこれやってわけがわからなくなったというケースが大半のようです。
これが連結バーです。両面2極の電極を兼ね、編成を貫くようにカスケード通電させています。どこか1箇所に通電不良が起きてもNGになってしまう、とても重要なパーツです。
連結バーは、赤○の部分が、すり減ったり欠けていると、カーブで抜けてしまうため交換が必要になります。電極は表面酸化しやすく、接点不良になると、これまた正常に走らなくなります。
連結バーは下の写真が正常なセット状態です。
黄色の○部分にささっている連結バーは強引に抜いてはいけません。次の写真、B側です。
元からささっている連結バーの穴幅Bと、差し込む側の穴幅Aの関係は「A>B」です。穴幅Bは連結バーの三角部分がひっかかって抜けないようになっています。(屋根を外さないと抜けない構造)
中間車はメンテナンス時に連結バーを取り外すと、方向がわからなくなってしまいますが、写真で示した部分が「赤・黒」になっています。(連結バーは常に赤側にセットしておきます) これはメルクリンならではの細かい配慮ですね。
連結バーの差し込みは、写真のように斜めにしてセットしますが、かなりクセがあります。強引に突っ込むと、受け側の接点が折れてしまうので要注意です。
造作されたレイアウト上で、セットが難しい場合は、平面テーブル上で連結させてからマージャン牌を持つように、そっとレールに乗せます。7編成の場合は、4+3編成で分けてセットするのも有効です。
続いてDIY派のユーザーさんでしたら、ピンとくる部分…と思います。
動力のボディを外した写真です。中古品でメンテナンス入庫の約30%が、赤○の部分にハンダ付け(プチ改造)されてきます。
この部分は真鍮で、接触面積がとても小さいので接点不良が頻発します。ハンダ付けは確実な対処方法ですが、アッパーが容易に外れなくなり、モーター清掃(取外し)の都度、ハンダを除去しなければなりません。
これを繰り返しているうちに周辺樹脂が熱で溶けたり変形するリスクがあります。ハンダ効果はとても高いのですが、私は手間がかかっても入念な清掃で、オリジナル状態に復帰させることが大切ではないかと考えます。
赤▲で示す部分が連結バーの受け口で、接点が折れると下写真パーツ交換になります。今回は編成中、3箇所が折れていました。
続いて、見落としがちな点、中間車の台車の車軸ズレです。台車は軟質樹脂で柔らかく、脱線した際などに簡単にズレてしまいます。滑らかに走らないときは要チェックです。
最後は走行には関係ない部分。動力ボディを外すと、高確率で紛失してしまうパーツがあります。本来、ここに付いているパーツです。
ゴマほどのサイズで、外れたことに気づかないとそのままになりがちです。
接着してもいいのですが、オリジナルのままに、しっかりセットして復活です。
この他にもVT11.5のウィークポイントはいろいろあるのですが、今回はこれくらいで。
今回交換した接点パーツやカプラは幸いにも弊社ストックがありましたが、車両によってはメーカー長期欠品パーツが多く、完全修理できないケースがザラにあります。
中古品の購入検討をされている方はどうか十分にご注意下さい。